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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)969号 判決 1972年9月07日

上告人

内村彦二

右訴訟代理人

奥江秀一

被上告人

中尾純一

被上告人

中尾芳郎

被上告人

中尾正昭

被上告人

株式会社

まからず屋

右代表者

水兼義典

右四名訴訟代理人

松村仲之助

主文

被上告人株式会社まからず屋に関する部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

上告人の被上告人株式会社まからず屋に対する本件訴を却下する。

上告人のその余の上告を棄却する。

上告人と被上告人株式会社まからず屋との間の訴訟の総費用および前項に関する上告費用はいずれも上告人の負担とする。

理由

職権をもつて考えるに、一件記録に徴すれば、被上告人株式会社まからず屋(以下、単に被上告会社という。)は、上告人が同会社に対して本件建物からの退去および本件土地の明渡を求める本件訴を提起した昭和四〇年九月二四日より前である同年八月一六日午後零時、会社更生手続開始決定を受け、訴外森正之が管財人に選任され、同月一七日その旨の登記手続がなされ、ついで、本訴が原審に係属中の昭和四三年五月一一日更生手続廃止決定が確定し、被上告会社は同月二五日午前一〇時破産宣告を受け、同月二九日その旨の登記手続がなされていること、第一審は、昭和四二年一二月二五日に弁論を終結し、被上告会社を当事者として上告人の被上告会社に対する請求を棄却する旨の判決をなし、原審も、昭和四五年六月一日口頭弁論を終結し、被上告会社を当事者として上告人の控訴を棄却する旨の判決をしていることが、いずれも明らかである。

右事実によれば、昭和四二年九月二〇日施行の会社更生法等の一部を改正する法律(同年法律第八八号)(以下、単に改正法という。)による改正前の会社更生法九六条により、上告人は被上告会社の管財人を被告として本訴を提起すべきであつたのである。もつとも、第一審の口頭弁論の終結前である昭和四二年九月二〇日右のとおり改正法が施行され、同法によつて従前の九六条は同条一項となり、その二項は、新たに「前項の規定は、第二百十一条第三項又は第二百四十八条の二第一項の規定により会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分をする権利が取締役に付与された場合において、その後に提起された訴えについては、適用しない。」と規定し、そして、この九六条二項の規定は、改正法附則二、三項により、改正法施行前に更生手続開始の申立てがあつた事件についても適用されることとなつているが、かかる改正法施行前の更生事件について改正法施行ののち更生会社の取締役に右の授権があつても、本件のように訴が改正法施行前に提起された場合には、その訴は右九六条二項にいう「その後に提起された訴え」とはいえないから、管財人を被告としなければならないのである。ただこの場合、誤つて更生会社を被告にしたとしても、後に取締役に前記の授権がなされたときは、右条項を類推適用して、その訴は正当な当事者を相手方とした適法な訴となるものと解するのが相当であるところ、これを本件についてみるに、一件記録によれば、被上告会社の取締役に右授権のなされたことは認められないのであつて、結局、本件においては、上告人の被上告会社に対する訴は、その相手方を誤つたものとして却下を免れないものといわなければならない。

上告代理人奥江秀一の上告理由について。

所論の各点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の挙示する証拠関係に照らして首肯するに足り、その認定判断の過程に所論の違法は認められない。それゆえ、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(大隅健一郎 岩田誠 藤林益三 下田武三 岸盛一)

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